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(左から) 内村公彦、Ravi Thummarukudy 氏、山口凱之

半導体産業は、製品単体の性能だけでなく、チップ、ソフトウェア、システムがいかに連携するかによって価値が定義される新たなフェーズに入りつつあります。SDV(Software Defined Vehicle)、フィジカルAI、自律型システムが拡大する中、半導体メーカーはコンポーネント単体のイノベーションを超え、インテリジェントで適応的なエコシステムの実現に向けて進化しなければなりません。

PwCコンサルティングと、GlobalLogic Inc.のグループ企業であるMobiveil, Inc.は、2024年にパートナーシップ契約を締結しました。これは、PwCコンサルティングの戦略的アドバイザリー能力とMobiveil, Inc.およびGlobalLogic Inc.の半導体設計、ソフトウェア、プラットフォームエンジニアリングにおける強みをかけ合わせることで、半導体事業におけるシナジーの創出を目的とした中長期的な取り組みです。進化する半導体エコシステムにおいて、クライアントが増大する複雑性に対応し、新たなビジネス機会を開拓できるよう支援することを目指しています。生成AI、AIエージェント、そしてロボティクスを含むフィジカルAIの導入拡大は、イノベーションを加速させるだけでなく、半導体の設計・統合・収益化のあり方そのものを再定義しています。チップがソフトウェアやインテリジェントシステムと密接に結びつく中で、価値の源泉は単体のコンポーネントから完全に統合されたAI駆動型ソリューションへと移行しつつあります。

本記事では、このように変化の速い市場環境におけるトレンドや課題、そして継続的なパートナーシップによって実現していく次世代の価値創造について、議論を深めました。

参加者
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
内村 公彦

PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
山口 凱之

Mobiveil, Inc. 
CEO
Ravi Thummarukudy氏

GlobalLogic Japan株式会社
Sales Director
Sathish Kumar 氏

Kimihiko UchimuraPwCコンサルティング合同会社 パートナー 内村 公彦

Ravi ThummarukudyMobiveil, Inc. CEO Ravi Thummarukudy氏

汎用型の半導体から特化型のAI駆動システムへ

内村:2025年は、私たちPwCコンサルティングとMobiveilが半導体事業でのパートナーシップを一段と強固にした1年だったと思っています。Raviさんとは一緒に日本や米国で半導体関連企業を訪問しましたが、その際、多くの半導体メーカーがGTM(Go-to-Market:市場進出)を目指している様子を目の当たりにして、半導体に特化したビジネスが今後さらに伸びていくと実感しました。

Ravi:2社のコラボレーションは着実に前進しています。多様なビジネスに関わる中で、私たちは業界の中で非常に良いポジションを確保できていると思っています。

山口:半導体市場はここ数年、高性能な汎用半導体が主流でした。しかし、直近ではシリコンバレーを起点に新たな変化が起きており、汎用品から専用品への移行が進みつつあると見ています。今後、どのような変化が起きていくのでしょうか。

内村:専用品の半導体需要は今後、確実に広がっていくと思っています。データセンター事業者が自社設計開発をしている半導体を例にとると、現状は市場におけるプライマリーサプライヤーが製造を独占的に担っていますが、今後は日本企業も含む複数の新たな企業がその役割の一部を担うことでマルチソーシングが進み、サプライチェーンが変わっていく可能性があります。

山口:ソフトウェア開発やユーザー企業からの要求の高度化も、専用品の半導体への移行に影響しているように感じます。例えば、チップレットのような非常に小さく高機能なプロダクトが生まれ、SDVのような新しいユースケースがその進化を加速させています。

Ravi:ビジネスの観点で重要なのはユーザーが求めるソリューションを提供することです。ユーザーは高性能のチップやソフトウェア、さらにはそれらを組み込んだシステム全体としてのソリューションを必要としています。

山口:日々変化する市場で生き残っていくためには、そうした要請にどう応えていくかが日本の半導体関連企業にとって重要なポイントになりそうですね。

Ravi:日本の半導体産業は、半導体メーカー(IDM)に加えて、材料、テスト、パッケージングなどのサプライチェーンを通じて極めて質の高いプロダクトを提供しています。今後は世界的な需要増に日本の半導体関連企業がより積極的に関わっていくことが重要だと思っています。一方で現状の課題は、海外の競合企業と比較するとあまり表に出ていないことだと思います。

フィジカルAI時代のビジネストレンド――コンピューティング、サプライチェーン、システム設計

山口:汎用品から専用品への流れの中で、ビジネス面ではどのようなトレンドがありますか。

Ravi:データセンター向けビジネスでは、アメリカの大手半導体メーカーがGPUを提供する流れが当面続くと思います。ただ、一方では、ユーザーであるデータセンター企業が自社でカスタム半導体の開発に挑戦するケースが増えています。自動車産業も同様で、自動車メーカーやOEMが専用品半導体の内製化を検討し始めています。

山口:地政学リスクを考慮したサプライチェーンの再構築も大きなポイントですね。

Ravi:そうですね。例えば、生産拠点の地理的な分散によってサプライチェーンのレジリエンス強化を進めているファウンドリもあります。このトレンドは、日本、米国、欧州、中国、インドいずれも同じであり、特にコロナ禍以降は、製造拠点を複数の工場に分散したり、パッケージングやテストなどを外部委託したりと、あらゆる手段が使われてサプライチェーンが変化しています。

内村:フィジカルAIやロボティックスには2つの大きなトレンドがあります。1つ目は、ロボットの役割が単純作業の反復からより複雑な業務へと移っていること。2つ目は、インドアでの作業からアウトドアでの作業へと広がっていることです(図表1)。ロボットを必要とする複数のマーケットに対してそれぞれ特有の要件に即した特別なソフトウェア、すなわち専用品半導体の提供が求められます。

Ravi:アウトドアの例として、例えば、駐車場における監視ロボット活用や農業でのロボット活用などがあります。屋外用のロボットでは開発環境そのものを屋外に置くことは難しいため、初期段階からデジタルツインを設定してモデル開発をして進める必要があります。この領域のフィジカルAIは日本企業の多くが多様な技術開発を行っています。

図表1 未活用領域への導入拡大  ロボット活用拡大の方向性

diagram-1出所:NEDO「ロボット分野における研究開発と社会実装の大局的なアクションプラン」(2023年4月24日)よりPwC作成

SDV・半導体時代の課題解決に向けたエコシステムの重要性

PwCコンサルティング 内村公彦

Ravi:日本の半導体産業のもう一つの課題は開発リソースの不足だと思っています。何人かの経営者との会話を通じて、2030年ごろまでに深刻なリソース不足が顕在化するのではないか、という懸念を抱いています。PwCコンサルティングとの連携では、クライアントのキャパシティやケーパビリティをリソース面から高めていくための支援が重要になります。また、より良いリソースプールを構築していくことも大事になっていくでしょう。

内村:ここでSDVにおける半導体について考えたいと思います。前提としてプロダクトのセキュリティは、チップやデバイスそのものにも必要になるのでしょうか。

Sathish:全てのチップと、そのチップの中で動作する部品に関して、機能の安全性を確保するためのセキュリティは不可欠です。特に自動車に関するセキュリティは非常にクリティカルです。自動車を電子部品化して大丈夫か、ブレーキシステムなどが攻撃を受けるのではないかといった懸念は常に存在し、OEM各社も強い警戒心を持っています。

Ravi:自動車メーカーやOEMが自社のカスタム半導体の開発に取り組んでいるトレンドは非常に明確です。ただし、自動車は高度な安全性が求められるため、その取り組みは慎重で時間がかかると思っています。

その状況を変える方法として、OEMのキャパシティやケーパビリティを補完・共有するプラットフォームの構築と提供があります。その役割を果たすものとして、自動車メーカーや半導体メーカー、クラウド事業者、ソフトウェアベンダーなど幅広いメンバーが参加するイニシアチブが挙げられます。

山口:イニシアチブを通じてクラウド上で車載ソフトウェア開発のプラットフォームを提供する仕組みが提供されれば、これを活用することでOEMはデータ管理やインターフェースの検討にかかる工数を効率化でき、ケーパビリティ不足といった課題の解消が期待できます。また、OEMにとって自分たちの半導体を作ることは大きな挑戦であるため、共通のイニシアチブの仕組みを活用することでセキュリティを確保しやすくなり、最小限の工数でリスクに手当てができるというメリットもあります。

Ravi:MobiveilやGlobalLogicグループにとっても、SDVにまつわるエコシステムの形成と発展は非常に重要です。日本国内にも同様に業界横断の組織がありますよね。

内村:ASRA(Advanced SoC Research for Automotive:自動車用先端SoC技術研究組合)があります。これは、チップレット技術を適用する車載用SoC(System on Chip)の研究開発や仕様の共通化を推進しています。ASRAが目指しているのは日本発の標準テンプレートですが、現時点ではまだ標準化されたプラットフォームは存在していません。

自動車のアーキテクチャ再構築――SDVをコントロールするコアECU

Ravi:日本ではどの産業の半導体需要が将来的に大きく成長していくと考えますか。

内村:大きい成長が見込まれるのは製造業です。ニッチな領域に特化したマーケットでも需要が伸びるとは思いますが、まずは製造業があり、その次に建築や土木です。これらの業界では労働力不足が深刻化しており、1社では担えないプロジェクトを複数の企業によるコンソーシアムで対応し、ロボットを活用していくことで、労働力不足をカバーすることになるでしょう。

そして、製造業の中でも特に重要なのが自動車産業です。自動車産業ではSDVの生産やSDV関連サービスが増えていますが、現状では各社や車ごとのECUはバラバラです(図表2)。SDVのさらなる普及に向けては、中央でコントロールするコアECUへの集約が進んでいくと思います。

Ravi:ゾーンコンピューティングの考え方に基づき、車体のフロント、リア、左、右といった物理的なゾーンごとに電子制御デバイスが区分けされ、それぞれのゾーンを担当するECUが個々のセンサーやアクチュエーターを制御します。これらのゾーンごとに配置されたECUがコアECUと接続することで、コアECUによる車両全体の統合制御がしやすくなり、OTAOver The Air:無線通信を使用した更新)によるソフトウェア更新も効率的に進めやすくなります。

図表2 SDVの構造とECUの役割

内村:その通りです。PwCの調査レポート(注釈)でも示しているように、自動車のE/E(Electrical/Electronic)アーキテクチャはかつての分散型からゾーンアーキテクチャへシフトしています。これは、中央のHPC(High Performance Computing:高性能コンピューティング)が各ゾーンを集中的に制御する方式であり、車内配線の簡素化や物理的な複雑さの軽減、OTAなどのソフトウェアアップデートの安定性向上が期待されています。個別機能を担っていた多数のECUは統合・集約化が進んでいますが、実際にはまだ旧来型のECUも多数存在しているのが実情です。

山口:コアECUの一般化によって従来の機能で分けていた個別ECUが減り、ハードウェアとソフトウェアのデカップリングが進みます。その結果、機能の追加や修正がしやすくなり、新車の開発期間も短縮できます。これはユーザーにとっても大きなメリットになると思います。

注釈)PwCコンサルティング「半導体とその先へ」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/semiconductor-and-beyond.html

一社では勝てない時代に求められるエコシステム全体の統合力 

内村:技術とビジネスをつなぐ組織として、LSTC(Leading-edge Semiconductor Technology Center)もあります。これは最先端の半導体技術の研究開発と人財の育成を目的の一つとした産官学の組織です。参画する企業や大学は、半導体分野の中でそれぞれの担当エリアやテーマを持っています。地域単位に大学と半導体関連企業が連携し、効率的に研究開発、人財育成に取り組まれています。

山口:SDVや新たな半導体の開発には課題もあります。先ほどのイニシアチブの話とも関連しますが、自動車メーカーやOEMはそれぞれが新しい技術分野でのナンバーワンを目指し、自社のプラットフォームやOSを共通規格にしたいと考えています。それに向けた取り組みが日本のOEM各社の技術向上につながり、優秀で勤勉な人材と非常に丁寧な仕事が強みになっていますが、中国のOEMなどと比べると開発に時間がかかる面もあります。日本のOEMや自動車関連企業はSDV分野に積極的に投資していますが、競争の中で結果的に投資を回収できずに事業運営に大きなインパクトが及ぶリスクも存在しています。

各社ともSDV領域の技術でパイオニアになりたいと考えているからこそ、どうやってプラットフォームに巻き込んで効率的な技術開発を実現していくかが課題になります。

内村:1から100まで自前で進めようと考えている企業に対して、「全部を自分たちでやる必要はなく、既存のケーパビリティやセキュリティプラットフォームを活用することができる」と伝える調整役が必要です。

山口:私たちはそのつなぎ役としての実績があり、産業内の各プレーヤーとの接点があります。その中で、Mobiveilはインターフェースを提供でき、GlobalLogicグループはソフトウェア開発やサイバーセキュリティ、半導体のデザインといった幅広い領域に強みを持ち、さらにその他の協業パートナーとも柔軟にコラボレーションする、といった形でつながりを作ることで、OEMのケーパビリティを拡張し活動を加速させ、共通のプラットフォームを基盤とした使ったエコシステムの構築ができると思っています(図表3)。

図表3 GlobalLogic/MobiveilとPwCのサービス提供により実現するエコシステム

Ravi:OEMが自社だけでできることにはまだ限界があります。私たちがケーパビリティを持ち寄り、最適な形でマッチングしていくことが重要です。もちろん、全ての領域に私たちが関われるわけではありませんが、戦略としてシェアできる部分は多くあると思います。

山口:その際には、事業としての収益も重要ですが、どれだけ大きなソーシャルインパクトを出せるかも同じぐらい重要だと思います。技術分野のパイオニアになることで、私たち自身もソーシャルインパクトを生み出したいと考えています。

Sathish:それは非常に重要だと思います。OEMのプラットフォームでケーパビリティを共有し、私たちが技術面からサポートします。さらにもう一段ハイレベルな取り組みとしてOEMと連携したGTM戦略も一緒に進めていけると考えています。

自動運転のその先へ――求められるコネクテッドモビリティの実現

山口:市場の次の成長に向けた取り組みとしては、引き続き日系の大手メーカーのSDV開発や投資が進んでいくでしょう。一方で、並行して内燃機関車からEVへの動力シフトも進む中で業界への参入障壁が下がり、伝統ある自動車OEMだけでなく新興企業やこれまで他業界で実績を築いてきた企業が新たに自動車業界へ参入しSDV領域で存在感を示すなど、従来の業界の壁を跨いだ新しい動きも出ています。

Ravi:自動運転領域への投資も進んでいるのでしょうか。

内村:将来的に大きくなっていくとは思いますが、現時点ではほとんどがPoC(概念実証)の段階です。例えば、比較的交通量の少ない地域では国内の自動車メーカーが自動運転のテストを行っています。

山口:一部の先進的な自動車メーカーでは自動運転の「レベル4」の認可取得を目指して実証実験を進めています。米国のサンフランシスコほど大規模かつ先進性のある取り組みではありませんが、自動運転やSDV開発の進化によってより豊かで安全なモビリティと人々の生活が実現していくのだと思います。

Ravi:サンフランシスコでは約800台のロボットタクシーが走っています。現在、サービスプロバイダーは1社のみですが、今後は新たなプレーヤーが参入するかもしれません。ロボットタクシーの車両は相互に通信するのではなく、基本的に車載のインテリジェンス機能に沿って運行されます。

V2V(Vehicle to Vehicle:車同士の通信)やV2I(Vehicle to Infrastructure車両と道路周辺のインフラ機器との通信)のコミュニケーションは自動化を次の段階に引き上げる可能性を秘めていますが、分散した環境においてリアルタイムでデータを処理・活用できる標準化されたフレームワークと高度なシステムが不可欠です。

半導体・SDVの戦略策定から実装まで

(左から)山口凱之、Ravi Thummarukudy 氏、内村公彦

山口:専用品半導体への移行を皮切りに、半導体や自動車産業特有の課題と、その解決策の方向性などについて議論してきました。市場の成長とともに今後もユーザーの要求は高度化していきますが、それに対して私たちがどうサポートしていくかが重要です。そのための支援体制として、PwCコンサルティングとMobiveil、GlobalLogicグループが持つ強みを再認識し、戦略策定から実装まであらゆるフェーズでの支援が可能であると改めて確認できたことが大きな収穫でした。

Ravi:PwCコンサルティングとの協業を通じて、フィジカルAI、SDV、データセンター、エネルギーなど、複数のテーマにまたがる成長市場の中で非常に良いポジションを獲得できていると実感しました。引き続きリーダーシップを発揮し、専用品半導体が前提となる未来の課題を一緒に解決していきたいと思います。

内村:フィジカルAIやSDVの普及を見据えると、産業内のプレーヤー、パートナー企業、さらには業界団体や政策まで含めた連携を推進していくことが求められます。私たちはその橋渡し役として社会にインパクトを出していきたいと思います。

(以上)

<ディスクリプション(Webチーム側で作成)>

SDVの進展により加速する半導体ビジネスの変化をテーマに、PwCコンサルティング パートナーの内村公彦、シニアマネージャーの山口凱之と、GlobalLogicグループMobiveil Inc.CEOのRavi Thummarukudy氏、 GlobalLogic Japan株式会社Sales DirectorのSathish Kumar氏が議論しました。

 

※本内容はPwC Japanグループのウェブサイトに掲載された対談記事を転載したものです。