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2024年、PwCコンサルティングとMobiveil(GlobalLogicグループ企業)は、両社が持つ半導体事業の能力とリソースを活用するパートナーシップ契約を締結しました。これはPwCコンサルティングが組織横断型で取り組むクロスインダストリーイニシアチブ(XII)の半導体分野における重要な取り組みの1つで、長期的な協力関係を構築することにより、事業のシナジーを創出し、半導体の製造技術と性能の向上、安定供給体制の構築、ひいては業界の成長につなげることを目的としています。
半導体事業の課題と両社のコラボレーションが目指す価値創造について、PwCコンサルティングの内村公彦パートナーと、GlobalLogicグループMobiveil Inc.社CEOのRavi Thummarukudyに話を聞きました。
(左から)Mobiveil, Inc. Santhish Kumar、Mobiveil, Inc. Ravi Thummarukudy、PwCコンサルティング 内村公彦 氏
プロフィール
PwCココンサルティング合同会社
パートナー
内村 公彦 氏
Mobiveil, Inc. (日立・GlobalLogicグループ)
CEO
Ravi Thummarukudy
半導体業界の成長を支えるそれぞれの役割
内村:私たちPwCコンサルティングは、半導体事業において特に戦略立案に強みを持ちます。一方のGobalLogicはデジタルエンジニアリングのリーディングカンパニーであり、特にRavi Thummarukudy,氏がCEOを務めるMobiveilはVLSI1*やハードウェアエンジニアリング、半導体の組み込み技術に特化したエンジニアリングに強みがあります。
これらを掛け合わせる今回のパートナーシップ契約の締結は、半導体分野のダイナミックな事業展開を生み出す魅力的なコラボレーションだと思っています。
*1VLSI(超大型集積回路): 半導体業界で数百万以上のトランジスタを単一のチップ上に集積する技術を指し、電子機器の小型化、性能向上、低消費電力化を実現する重要な技術
Ravi:そうですね。Mobiveilは2023年に日立製作所の米国子会社であるGlobalLogicグループの一員となりました。私たちのビジョンは、さまざまな業界において「チップからクラウドまで」のデジタルソリューションを開発するための信頼できるパートナーとなることです。GlobalLogicが持つ世界25カ国の拠点と33,500人のグローバル人財を活用することで、半導体業界を中心に様々な業界 に貢献することができます。
内村:パートナーシップにおけるそれぞれの役割として、私たちは半導体事業の上流において、デジタルビジネス戦略の立案、分析、投資判断のアドバイスといった支援が可能です。さらには、市場や顧客の分析を踏まえた新しいビジネスモデルの確立とビジネス開発などの支援も行います。
Ravi:そこから先の具体的なオペレーションやサービス設計は、GlobalLogicが強みを発揮する領域ですね。私たちの役割は経済合理性を考えながら、お客様が製品を迅速に市場に提供できるように支援します。
図案・両社の役割の図
内村:事業の中流から下流では、新しいビジネスモデルを確立していくためのユースケースの創出やMVPの開発*2が重要です。その点においてGlobalLogicは、独自のエンジニアリングとデジタルトランスフォーメーションサービスを展開していますね。
*2 Minimum Viable Product開発:必要最低限の機能のみを備えた製品を迅速に開発する開発アプローチ
Ravi:はい。AIを例にすると、各企業や業界がさまざまなアプローチで活用方法を検討していますが、現状はPoC*3やテストで終わってしまい、業務の効率化や生産性向上に結び付いていない実態があります。この現状を改善するため、私たちはAIを活用した包括的なサービス・スイート「GlobalLogic Velocity AI」を作り出しました。この取り組みにより、どの企業でもインテリジェントエンタープライズになることが可能となり、AI、デジタル技術、そして人間の専門知識を組み合わせることで、製品開発を加速し、業務を改善し、顧客体験を向上させる支援を行います。
さらに私たちは真のDX実現の新しいモデルとして「Labモデル」を展開しています。このモデルでは、ハードウェアでもソフトウェアでも、顧客の製品を共同で開発し、マネージドサービスを提供することを特徴としています。
*3: Proof of Concept(概念実証):特定の技術やアイデアが実際に機能するかどうかを検証するためのプロセス
図案・GlobalLogicの事業分野の図解
日本企業の潜在的課題
内村:日本国内の半導体市場では、2030年度までに次世代半導体の研究開発と量産化が重要なテーマとなっています。助成金をはじめとした大規模な公的支援も動いています。その中でも注目されているのが、日本における先端半導体の量産化です。現在、量産可能な最小の回路線幅は3nmですが、2027年には2nmの先端半導体を国内で量産する計画があり、これは世界の企業でも実現されていない技術です。
Ravi:日本は技術的にも市場としても非常に魅力的です。半導体に限らず、これまで多くの画期的な製品を世の中に生み出してきました。私自身、90年代の半導体ブームの時期に、世界の半導体の供給を支えていた日本企業のお客様から半導体ビジネスに必要な知見を多く学びました。この10年、日本企業が半導体分野から一時的に距離を置き、システムソリューションの分野で新たなイノベーションを起こしてきましたが、日本企業には半導体分野で再びイノベーションを起こす力があると確信しています。
内村:私も大いに期待しています。ただし、コンサルティング視点で産業新興を見たとき、顧客獲得は大きな課題だと感じています。先端半導体の量産は、日本の半導体産業にとって重要な成長要素ですが、「産業ニーズがどこにあるのか」「どのアプリケーション市場に顧客がいるのか」といった点が明確ではありません。顧客獲得戦略の策定では、AI向けのカスタム半導体の需要が高まっている現状を踏まえ、変化する市場ニーズを的確に捉え、専用多品種のフレキシブルな生産体制が求められるでしょう。このような市場ニーズをどうとらえ、適格に対応していくかが、成功のカギになると考えています。
Ravi:確かに事業成長という視点では、リソース不足も大きな課題です。ここは私たちが協力できる領域です。PwCが描く戦略のもと、日本国内だけでなく海外でも、私たちが得意とするデジタルエンジニアリングや実装力を活かして貢献できると考えています。
図案・顧客ターゲットの解説の図など
生成AI時代の技術トレンド
内村:半導体の需要は高まり続ける一方で、それに応えるための技術開発や安定供給体制の整備が課題になっています。半導体企業の成長には、優れた性能を持つ半導体をタイムリーに市場に提供できるかどうかが重要です。
Ravi:供給の面では、まずサプライチェーンのレジリエンスが今後ますます求められます。半導体は長年、電子機器や車などの構成部品でしたが、その重要性があまり意識されていませんでした。コロナ禍で製造や物流に混乱が生じたことで、各業界は半導体の重要性を再認識することになりました。
内村:AIの実用化と、それに伴う爆発的な需要増も、半導体不足の一因になっています。最近は「チップレット」のような新しいアーキテクチャも登場しています。従来の半導体チップを微細化により2D(平面)での集積度を上げてきましたが、現在はその限界が近づいています。今後は、3D構造でチップを積層・統合するチップレット技術が注目されています。生成AI活用の高度化とともに、この分野の市場も大きく成長していくと見ています。
(左から)内村公彦氏、Ravi Thummarukudy、Santhish Kumar
スタンダードとカスタムの両立
内村:これからの半導体市場では、「ロボティクス」と「AI」が重要なキーワードになると考えています。特に注目すべきは半導体の「標準化」と「カスタム化」の両立です。あらゆる分野で活躍するロボット向けには高性能かつローパワー、ローコストの半導体が求められ、ここに競争優位性が生まれます。つまり、先端半導体の専用多品種が必要となり、ロボティクスやAIのアプリケーション市場が今後さらに拡大していくと見ています。
Ravi:カスタム半導体では、用途やシステムに特化したチップを設計が求められます。たとえばEdge AI、医療、軍事などの分野では、1,000から10万個といった小ロットでの生産ニーズが増えています。そこでは三つのテーマが重要になります。第一に「小型化」、第二に「性能の高度化」、第三に「AIベースの設計」です。AIはクラウド型とエッジ型があり、今後10年以内には「AIエンベデッド(組み込みAI)」が当たり前になると予測しています。クラウドだけではなく、エッジを含めた統合設計がもとめられるでしょう。
内村:現状はクラウド側にAIの「頭脳」がある構造です。PCやスマートフォンなどの端末からクラウドにアクセスし、AIの処理結果を受け取る仕組みが主流です。例えば、スマートフォンでテキストや画像、音声を送信し、クラウドでAIが分析を行い、その結果を戻ってくるというアーキテクチャです。これをエッジ処理に変えるには、AI処理を端末内で完結できるよう、エッジデバイスに高度なAI半導体を組み込む必要があります。
Ravi:そのとおりです。自動車を例に挙げれば、SDV(Software Defined Vehicle)という考え方が広がっています。車内が職場になり家庭にもなる時代が来ています。このような環境下では、データのやり取りやセキュリティ、通信の信頼性がこれまで以上に重要になります。特に車は安全性が第一です。万が一の際、クラウドでAI処理を待っていては間に合いません。例えば前方に危険物を検出した瞬間にクラウドへ画像を送ってAIで識別するのでは、結果を受け取る間に事故が発生する可能性があります。だからこそ、AIを端末側に実装し、リアルタイム処理を行えるようにする必要があるのです。その実現には、多様なアプリケーションニーズに応じた、高度な半導体を小ロットで供給する力が求められます
シリコンIPによる標準化の推進
内村:エッジを想定したAI半導体の高度化ニーズにおいては、シリコンIP*4とEDA*5も重要です。シリコンIPが普及する前は、フルカスタム設計が主流で、半導体をゼロから設計していたため、時間もコストがかかっていました。しかし現在では、あらかじめ最適化されたシリコンIPを活用することで、設計の初期段階から高度で最適化されたコンポーネントを利用でき、開発期間の大幅に短縮が可能になっています。
*4半導体IP:半導体設計の機能ブロック(平易には特定の機能を果たす回路設計情報の塊というイメージ)
*5 EDA(電子設計自動化): 半導体設計者が集積回路を効率的かつ正確に設計するためのソフトウェアツール群を指し、チップの設計、検証、テストの自動化を通じて開発期間の短縮と設計の最適化を支援する
Ravi:そのとおりです。これまでのフルカスタム設計では、製品化までに平均で24から36カ月かかっていましたが、シリコンIPを活用すれば、それを12から18カ月程度に短縮することができます。標準的なサードパーティー製のソフトウェアや設計環境との相互運用性も高まり、標準化が進むことで、複雑なも短期間で簡単に開発できるようになっています。
内村:EDAベンダーが提供する再利用可能な特定機能向けの設計情報の価値もさらに高まっていくと思います。その点でMobiveilは独立系IPおよびサービスベンダーとしての強みを発揮しています。
Ravi:私たちは、ストレージ、IoT、通信といったアプリケーションに特化したシリコンIPを提供していること、コンフィグレーションやカスタマイゼーションが容易なシリコンIPを開発できること、そしてサポートが充実していることの3点が競争優位の源泉だと思っています。加えて、GlobalLogicと連携することで、ファームウェアやBSP*6/BSW*7の開発、組み込みプラットフォームの検証・テスト自動化にまで対応しています。さらに 、デジタルツイン、製造・倉庫の自動化、AIによる生産最適化といった産業のデジタル化に全般に貢献する最先端ソリューションも提供しています。
また私自身、30年以上にわたり、半導体、IP、EDAの分野に携わってきました。その経験から、設計をパッケージ化し、再利用可能にする仕組み、つまりシリコンIPの重要性を強く実感しています。今後も、シリコンIPやサービスを活用し、さまざまな業種のクライアントに向けて、高品質なソリューションを提供していきたいと考えています。
*6 Board Support Package: 特定のハードウェア上でオペレーティングシステムが動作するために必要なドライバや設定情報を提供するソフトウェアで、ブートローダやデバイスドライバを含み、開発者がデバイス固有の詳細から抽象化されるようにする
*7 Basic Software: 組み込みシステムで基本機能を提供するソフトウェア層で、特にAUTOSARで使われる。オペレーティングシステムやデバイスドライバなどが含まれ、ハードウェアとアプリケーションソフトウェアを仲介し、開発者がアプリケーションロジックに集中できるようにする
内村:お互いの強みと役割を確認し合えたことで、このパートナーシップが本格的に動き出すことに、大きな期待を寄せています。PwC Japanは、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」ことをパーパスに掲げています。私たちは、半導体事業を通じて社会にポジティブなインパクトを与え、人々の生活と社会を良いものにしていくために企業、業界、そして社会全体のトランスフォーメーションを支援していきます。
※本内容はPwC Japanグループのウェブサイトに掲載された対談記事を一部変更の上で転載したものです。